母乳で育つという事 助産師 來田美鈴
公開日:2023年03月19日 最終更新日:2023年05月17日
【子育て応援コラム】母乳で育つということ すず助産院 來田美鈴さん
すず助産院
院長・助産師 來田美鈴
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生まれてくる赤ちゃんが母乳で育つということは、とても自然で大切なことです。
母乳は、赤ちゃんの時期だけ健康に良いというわけだけでなく、大きくなってからの健康にも貢献します。ここでは、そんな母乳の効果についてお話しします。
生まれてから最初の6か月間、母乳で育つことは、将来の肥満や糖尿病、高血圧などのメタボリック症候群の予防となります。免疫物質を含んでいる母乳は、さまざまな感染症にも予防効果がありますが、特にインフルエンザ桿菌(ヒブ)に対する予防効果は、10歳まで持続します。
アレルギー疾患の予防効果もあり、両親のどちらか、あるいは両親にアレルギーがある場合は、母乳で育てることが勧められます。
また母乳には、赤ちゃんの脳と神経の発達を助ける最適な成分がすべて備わっています。長期間母乳で育った子供は、ほとんど母乳を飲まないで育った場合より、認知能力(IQ)が高いことが知られています。
特に赤ちゃんが早く小さく生まれた場合は、未熟児網膜症を予防し、脳神経の発達においては、より高い効果を発揮します。
早く生まれて赤ちゃんにとっての母乳は、より大切で成長に必要なものなのです。母乳の成分は決して均一ではありません。それぞれのママのおっぱいから出てくる母乳は、その赤ちゃんの成長に合わせ成分が少しずつ変化していきます。母乳は、生まれて間もない時期から赤ちゃんを守り、その成長を助けてくれるのです。
産後の職場復帰後、保育園での集団生活は、多くの感染症とも出会います。
入園後も、引き続き母乳を飲んでいる赤ちゃんの方が、罹患しても回復が早く、結果的に保育園のお休みが少ないことが最近の研究で分かってきました。赤ちゃんが元気に保育園に行けるという事は、安心して仕事をすることができることにもつながります。
そして、大切なことがもう一つあります。
大きな震災時の赤ちゃんの栄養法として最も適しているのは、やはり母乳です。
電気もガスも止まり、清潔な水もない不衛生な環境の中では、下痢やインフルエンザなどがよく流行し、赤ちゃんにとっては、それが命にかかわるような場合もよくあります。そんな時でも、免疫物質を含んだ母乳は、一番安全で安心して赤ちゃんに与えることができます。
震災のショックで一時的に母乳が出なくなった場合でも、ママが安心して授乳を続けているうちに多くの場合復活してきます。震災時、母乳はまさに赤ちゃんの命をつなぐ大切な役割を果たすのです。
最近は、母乳の効果が、赤ちゃんだけでなく母親の方にもあることが分かってきました。
母乳育児を継続することは、乳がん発症の予防となります。乳がんだけでなく、卵巣がん、子宮体癌、骨粗しょう症においても予防効果あります。母乳は、母親にも大きなメリットを与えてくれるのです。
しかし、そんな母乳育児のスタートは、妊娠中に思っていたより少し大変かもしれません。吸われる乳首が傷ついて痛みが辛かったり、授乳回数がびっくりするほど多くてゆっくり休めなかったり・・。なかなか満足してくれない赤ちゃんに、本当に母乳がでるんだろうかと不安になったり・・。
そんな時は、どうぞあまり心配せず、その時にやれるだけに授乳を続けてください。
産後2~3週間くらいするとおっぱいは本格的に出始め、授乳に慣れてくれば、時間の流れと共に、授乳が少し楽に感じられるときがやってくるでしょう。
母乳育児は、ママと赤ちゃんとそれを支えるご家族との三重奏です。
最初はそれぞれのリズムがうまく合わなくても、日々一緒に過ごす生活の中でゆっくりリズムが整い、いずれ心地よいものとなっていくのです。 どうぞ、これから生まれてくる赤ちゃんのために、自信を持って、母乳育児を始めましょう。
※このコラムは2013年3月にNPO法人i-netより発行の「赤ちゃんを迎える家族のための新生活応援BOOK」に掲載された内容を転載しています。